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新年さいしょは詩であいさつを

   

    もはやそれ以上
                           黒田三郎


もはやそれ以上何を失おうと
僕には失うものとてはなかったのだ
河に舞い落ちた一枚の木の葉のように
流れてゆくばかりであった

かつて僕は死の海をゆく船上で
ぼんやり空を眺めていたことがある
熱帯の島で狂死した友人の枕辺に
じっと坐っていたことがある

今は今で
たとえ白いビルディングの窓から
インフレの町を見下ろしているにしても
そこにどんなちがった運命があることか

運命は
屋上から身を投げる少女のように
僕の頭上に
落ちてきたのである

もんどりうって
死にもしないで
一体だれが僕を起してくれたのか
少女よ

そのとき
あなたがささやいたのだ
失うものを
私があなたに差上げると



※『黒田三郎詩集』(日本の詩集16、1973年、角川書店)より

この詩集、近所のカライモブックスで見つけてもらったんですが、
この詩の、特に後半はすばらしいですね。
今年もよろしゅうに。
by okabar | 2011-01-03 22:42 | ばーのようす
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