福島の詩人たち⑤ 和合亮一さん「詩ノ黙礼」

こちらも藤井さんが1月22日の白龍会のおり、プリントで配ってくだすった詩。
和合亮一さんの『詩ノ黙礼』という詩集から。
勉強会の時、この詩を藤井さんが朗読してくださり、じん。




詩ノ黙礼 4/23 不眠    


電灯の無い文知摺橋。暗闇を行く黒い影。移動。暗闇から暗闇へと移動する悲しい影。電光掲示板に灯される力の無い文字。「20キロ圏内、立ち入り禁止」。移動する影。

朝から雨が降っていた。優しい雨。悲しい雨。計画的避難。3000世帯。五月末までに10000人と指定される。朝から雨が降っていた。私は髪を切りに出かけた。

精神の髪を切りながら、耳を宇宙の内側に傾けている。隣の精神の髪を切られているお客さんが語る。「おらいの嫁のうぢの家族がよ、避難してきたんだ。南相馬がらな。んだげど、馬が心配だがらって、帰っていったんだ、この前」。

お嫁さんの家のご家族は、避難していくところはあるのですか。「無い」。精神の髪は切られている、精神の髪は切られていく。

んだげんちょも、生ぎでんだべ、人も、馬も。髪も。切られでしまっで、いいのがい。私は精神の髪を切られている。宇宙の内側に耳を傾ける。雨の音。

雨の奥から、懐かしい音が聞こえてくる。竹刀の打ち合う音だ。

目を閉じながら、精神の髪を洗ってもらう。耳。泡。はじける音が、竹刀の打ち合う音と似ている。剣道をやっていた。小学校五年生から高校一年生まで。竹刀の打ち合う音。洗髪の音。泡の音。竹刀の音。

雨が地面と打ち合う。国家が人と打ち合う。海が街と打ち合う。風が生活と打ち合う。竹が竹刀と打ち合う。正義が義務と打ち合う。優しさが処罰と打ち合う。悲しみが悲しみと打ち合う。打ち負かす。悲しみが悲しみに打ち負ける。髪が泡と打ち合う。髪が指と打ち合う。泡が水に打ち負ける。洗髪。

髪が乾かされる。すっかりと短くなった。日本の現在に髪を切られたのだ。

精神の髪を切る理容師は、話した。「避難所を何ヶ所か回った。岩手も宮城も福島も。髪を切ってあげたのだ。しかし福島の避難所の人々は表情が硬い気がする」。日本の現在は髪を切るのだ。日本の現在の髪を日本の現在は切る。日本の現在の髪は日本の現在に切られていく。

切られていない髪と切られている髪と切られた髪、私たちの精神はこの三者を持て余す。私たちの精神の髪を、誰か、梳かして下さい。黙礼。


以下略。






※この詩集もツイッターで書かれたものをまとめたもので、上に紹介したのは4月23日に書かれたものの一部。ほんとはもっと長く続いていく。ひとつひとつが瞬間の、つらなり。

※文知摺橋→もちずりばし
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by okabar | 2012-06-01 18:55 | とうほく
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